シルクスイートで作る糖度40の焼き芋レシピでは、140度3時間という加熱条件を提案しましたが、この「140度」「3時間」という数字はどのようにして選ばれたのでしょうか?? 解説します。
以下の記事内容を前提とします。まだ読んでなければ確認しておいてください。以降、この記事(↓)のことを「お勉強記事」と呼びます。
適当に作って美味しくなるほど、焼き芋は甘くはありません。甘ーーい焼き芋を作るには周到な作戦が必要... 焼き芋を甘くするために知るべき4つのこと - Theory is the best sauce. |
というのが、その「4つのこと」です。
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目指すレシピは、、、
「手間をかけず、放っておけば勝手に出来上がる。でも美味しい。」
という欲張りなものです。
私の中で、焼き芋は「夜食」または「おやつ」なので、手間をかけて作るようなものではありません。したがって、細かいお世話が不要で、オーブンに放り込むだけで出来上がるレシピに焦点を絞ります。 1)Anova で作る選択肢もありますが、焼き芋の加熱温度は他の食材と同時並行しづらく、我が家の生産性が著しく低下するため現状見送っています。あとAnovaなんて一般的な家庭にない、という点も大きい。
細かいスペックに興味はありません。ここで重要なのは、
という2点です。後述するように、今回の目的において興味がある設定温度は140-180℃なのでこの設定におけるNickのオーブン SOB-VS10 の庫内温度変化を以下に載せます(0.5分, 1℃単位でプロット) 2)オーブンに放り込める温度計を使って計測:
概ね設定通りに動いてくれているので良しとします。
厳密には、加熱温度と加熱時間は独立して選ぶことはできず、相互に依存します。ここでは説明の便宜上、加熱温度を先に説明します。
お勉強記事で書いた「妥協案」に従って焼き芋を甘くします。つまり、
ことを目指します。この2つを両立する設定温度を見つけます。(後で長時間加熱の影響が何らかの形で現れないか確認します。)
どの温度が都合がいいかは、実際に測ってみればいいでしょう。オーブン設定温度ごとに芋の中心温度の推移を確認し、
見た方が早いので、説明すっ飛ばしてグラフを載せますね。
全部シルクスイートでサイズはそれぞれ
140℃加熱のもの→188g, 長さ90mm, 最大周囲210mm
160℃加熱のもの→メモ紛失(他2つと似たような形状)
180℃加熱のもの→202g, 長さ120mm, 最大周囲180mm
どの温度でも大して変わりません。中心温度に焦点を絞ってしまえば、設定温度よりも個別の芋の形状の方が大きい要素かもしれません。(そのため、設定温度も20℃刻みにしています。)
70~80℃をゆっくり通過させられるのは間違いなく140℃設定の場合ですが、180℃設定の方が水分を奪っていくスピードは早いでしょう。どちらを取るべきか迷うところです。
歩留まりを考えると140~180℃のどれを取るべきか、綺麗に優劣を付けることができます。結論から言うと、140℃が優れています。
160℃以上で(全体がねっとりするくらい)長時間加熱すると、皮とその直下がパキパキ・カチカチになってしまい、可食部がかなり減少します。
手元の記録に残してある限りでは、180℃では90分加熱時点で、160℃では120分時点でパキパキになった例があります(いずれもシルクスイート。個体差あり)。
シルクスイートはまだマシな方ですが、紅はるかなどではかなり顕著です。ちなみに、紅はるかは140℃でも硬くなってしまいます。。
皮直下の部分は美味しそうな黄金色の焼き色がつき、とても食欲をそそる部位なので、皮を食べる/食べないを別にしても、140℃を選ぶメリットは大きいと思います。よって、加熱温度は140℃を選ぶことにします。
以下のように残念な仕上がりになります。
90℃の加熱などでは特に顕著になります。具体的にどの温度帯で2つの問題が発生するのかはわかりません。ひとまず現状わかっていることは、低温加熱が長くなるとペクチン硬化以外にも「変色」という厄介な問題が噴出するということです。
このような理由から120℃以下の加熱温度は却下しています。
お勉強記事で書いた「妥協案」を復習します:
これが「妥協案」でした。加熱温度は140℃より下げると問題が噴出することを前項で見たので、加熱温度は140℃を現実的な解として受け入れることにします。
これで「妥協案」における通過速度( 1 )は決定されました。となると、残るは( 2 ) どれだけ水分を抜くか? という課題です。これを考えます。
結論: 加熱前の芋の重量対して30%抜きましょう。
元が200gならその30%、つまり60gのダイエットを終えた140gになるまで加熱してください。(軽くなった重さ=水分減少量と想定)
糖度の濃縮という観点から考えれば、30%以上の減量を求める可能性は十分あります。しかし、それでは、いつまで経っても加熱が終了しないので、糖度以外の観点から「30%くらいでいいんじゃない?」と考える理由を提示します。
理由は3つあります。
1点目については説明を省き、2, 3点目について少し。
私が試した限りでは、24%減量くらいではまだ中心部分が「ホクホク」的な状態で、もう少し加熱して「ねっとり」させたいと思う状態です。28%くらいになるとだいたいOK. 30%は安全ライン、といったところです。
当然ながら直径が大きい場合の方が、減量率の割には中心部分の仕上がりが甘くなりがちです。たとえば、直径が大きいと、28%減量させても、「うーん、あともう少し!」みたいなときがあります。しかし、30%減量まで加熱すればまず大丈夫。その意味で、30%減量という目標は、優秀な安全ラインだと思います。
なお、経験上、140℃で3時間加熱すれば、30%減量できています。 3)ただし、これは私のオーブンに限った話なのかもしれない。140℃3時間の「3時間」はこの30%基準から考えたものです。
厳密な数学的モデルは放っておいて、雑な推論をします。
140℃の加熱によって、初期量に対して30%の減量が完了する前後の状態では、20分の加熱時間を増やすごとに初期量に対して約3~3.6%の水分を失っていきます。
加熱時間を伸ばすにつれ、芋に含まれる水分量がどんどん減っていくので、このレートもどんどん下がっていきます。事実、この3~3.6%という数字も加熱工程全体の中では、かなり低い値と考えられます。
仮に、30%減量後も、20分毎に3%減らせたとしても、合計35%減らすためにはプラスで40分弱、合計40%減らすには合計4時間かかる計算です。(このとき、皮が固くならない保証もない…)
これは私にとっては長すぎる時間(3時間だって正直長いと思ってます。笑)ですが、どれくらいの加熱時間を許容できるかは各自のライフスタイルによると思いますので、判断はおまかせします。
「140℃」「3時間」というレシピがどういう考えに基いて作られているかを説明しました。
「140℃」は、変色やペクチンの硬化が起きない程度に高温だけど、長時間加熱によって皮が固くならない程度に低温であるという、都合の良さから選ばれたものでした。
他方、「3時間」は「30%減量」を達成するのに十分な時間として採用されたものです。「30%減量」は芋全体の食感が完成するのに必要な水分喪失率であり、これ以上の減量を求める時間的コストが大きいと(私が勝手に)判断して決めたものでした。
ネタは全て披露したので、あとは私のレシピに納得して焼き芋を楽しむなり、改良の余地ありと見て研究するなり、よしなに使ってください。笑
そして、新しい / 面白いレシピを開発 or 発見したら是非ご一報を!
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