ウエルシュ菌(Clostridium perfringens)
100度の高温にも耐え得る厄介なウェルシュ菌について、食中毒予防の観点から情報をまとめました。また、低温調理/真空調理をする人に向けて詳細な死滅温度(D-値)も紹介します。
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ヒトや動物の大腸内常在菌で嫌気性。土壌・河川・海などに広く分布する。食品では食肉の汚染が多い。
飲食店や旅館など大量調理を行う施設での事例が多く、逆に家庭での発生は少なめ。
芽胞を形成することで、煮沸にも耐えうる。
調理後の食品を常温に長時間置かないことが有効な予防策となる。
発育温度:10〜52℃
生育最低水分活性:0.93
ph:5~9
塩分濃度上限:7%
分裂速度は45度の場合で約10分と速い。
pork luncheon roll
増殖型
55度:16.3分(1時間55分)
65度:0.9分(6分18秒)
Z-値 7.8度
芽胞型
90度:34.2分(4時間)
100度:2.2分(15分24秒)
Z-値 8.4度
(以上[4])
牛挽肉
増殖型
55度:21.6分(2時間32分)
57.5度:10.2分(1時間12分)
60度:5.3分(37分6秒)
62.5度:1.6分(11分12秒)
turkey
増殖型
55度:17.5分(2時間3分)
62.5度:1.3分(9分6秒)
いずれもZ-値は類似しており、高いもので6.77度.(以上[5])
なお、[1]によると、芽胞でない増殖型の状態での生存上限は52.3度と報告されているよう。
D-値が初耳の人はこちらをどうぞ。
D-値の知識なしに低温調理を行うことは、毒キノコの知識なしにキノコ狩りに行くようなものです。あなた... 【Anova】D値: 真空調理/低温調理の食中毒予防のための知識 - Theory is the best sauce. |
食肉についてはと殺段階。
魚からはもともと検出される。
野菜は土壌の付着による。
6~18時間の潜伏期間を経て、腹痛・下痢を起こす。食中毒としての症状は軽い部類。
ウェルシュ菌が増殖した食品が胃を通過し、小腸内で増殖して、菌が増殖型から芽胞型に移行する際に産出されるエンテロトキシン(毒素)が原因。
なお、食品中のエンテロトキシンは加熱(60度×5分)や酸(ph4以下)で不活性化される。
ウェルシュ菌の1千万-1億個以上の摂取。
毒素の摂取ではなく、菌の摂取による。
・加熱時の温度上昇速度を十分に速くすること
・調理後に食品を保存する場合は、急冷すること(小分けに急冷することが望ましい)
ウェルシュ菌は芽胞を形成し、煮沸や好気環境においても完全に不活性化することができないため、ウェルシュ菌の繁殖温度を通過する時間を短くし、繁殖を防ぐことが重要。
日本語文献で網羅的なリストがないように思ったので作りました。代表的な食中毒細菌・寄生虫の生息環境... 食中毒を起こす細菌・寄生虫・ウイルス23種情報まとめ - Theory is the best sauce. |
[1]Cooking for Geeks: Real Science, Great Cooks, and Good Food. 2nd edition. Jeff Potter. O’Reilly Media, 2015.
[2]国立感染症研究所
[3]一般財団法人東京顕微鏡院
[3]wikipedia
[4]Thermal inactivation of Bacillus cereus and Clostridium perfringens vegetative cells and spores in pork luncheon roll. Byrne. B, Dunne. G, Bolton. DJ. Food Microbiolgy. 2006 Dec;23(8):803-8.
[5]Thermal inactivation of Clostridium perfringensvegetative cells in ground beef and turkey as affected by sodium pyrophosphate. V.K Juneja, B.S Marmer. Food Microbiology Volume 15, Issue 3, June 1998, Pages 281-287.
[6]Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Food: Draft Guidance for Industry. U.S. Department of Health and Human Services
Food and Drug Administration Center for Food Safety and Applied Nutrition, 2016.