ヒト回虫(Ascaris lumbricoides)
汚染された土壌で栽培された野菜に付着しうる回虫について、食中毒予防の観点から情報をまとめました。また、低温調理/真空調理をする人に向けて詳細な死滅温度も紹介します。
スポンサーリンク概要
ヒトの小腸で成虫となるミミズ状の寄生虫。世界全体で約10億人の感染者がおり、特に発展途上国など公衆衛生水準が低い国では40%を超える感染率がある。虫卵の付着した野菜を経口摂取することで感染する。
寄生場所
子虫は肝臓・肺に寄生する。
子虫はやがて小腸に移動して成虫となる。
寿命は2~4年。
感染経路・症状
雌の成虫は成熟すると小腸で1日10万個以上の卵を産む。小腸内では孵化せず、体外に排出された卵を経口摂取することで孵化し、子虫が小腸に寄生する。
症状は、寄生虫数が少ない場合、腹痛・食欲異常、嘔吐など。多数寄生の場合は腸閉塞などを起こす場合もある。
予防方法
・感染流行地での生野菜の摂取を避けること
・下肥を使用した有機野菜の生食を避けること
・加熱による卵の感染力消失条件は様々なものが報告されている。
[3]
50度×4時間50分
52度×47分
55度×6.5分
[4]
60度×4分
65度×1分
70度×10秒
また、[5]における堆肥資料中の実験から虫卵のD-値を算出すると
50度92.2分
51度64.3分
52度44.8分
53度31.2分
54度21.8分
55度15.2分
56度10.6分
57度7.4分
58度5.2分
59度215秒
60度150秒
61度105秒
62度73秒
63度51秒
64度36秒
65度25秒
また、以下のように成熟卵(中に発達した幼虫がいる)と未成熟卵の非活性化条件は大きく変わらない。
[6]のマウスを用いた実験(非常に近いとされるヒト回虫を使用)によれば、成熟卵の感染力について以下のような結果がある。
50度20分→感染力あり
60度10分→感染力あり
60度15分→感染力なし
また未成熟卵の成熟についての実験では
60度10分→感染力あり
60度15分→感染力なし
65度5分→感染力あり
65度10分→感染力なし
70度5分→感染力あり
70度10分→感染力なし
参考文献
[1]東京都福祉保健局
[2]wikipedia
[3]Ascaris lumbricoides suum: thermal death time of unembryonated eggs. Barnard RJ, Bier JW, Jackson GJ, McClure FD. Exp Parasitol. 1987 Aug;64(1):120-2.
[4]The Inactivation of Ascaris suum Eggs by Short Exposure to High Temperatures for the Purpose of Sanitizing VIP Latrine Sludge by Viscous Heating. Danica Naidoo Gary L. Foutch, Colleen E. Archer and Christopher C. Appleton. Pollution Research Group University of KwaZulu-Natal University of Missouri-Kansas City.
[5]The Practical Handbook of Compost Engineering. Roger Tim Haug. CRC Press.
[6]The effect of various chemicals and temperature in destruction of the eggs of Ascaris lumbricoides: A progress report. Arfaa, Fereydoun. (1978). Iranian Journal of Public Health. 7. 186-195.