酸素のない環境で生育するボツリヌス菌 (Clostridium botulinum)について、食中毒予防の観点から情報をまとめました。また、低温調理/真空調理をする人に向けて詳細な死滅温度(D-値)も紹介します。

出典:東京都福祉保健局
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概要

ボツリヌス毒素と呼ばれる自然界最強の毒素を排出する偏性嫌気性菌。食品中に排出されたその毒素を摂取することでボツリヌス症と呼ばれる神経中毒症状を起こす。高温に耐える芽胞を形成するため、ボツリヌス菌自体を完全に死滅させることは難しい。ボツリヌスの繁殖を抑えることと毒素自体を熱処理するなどの対策が有効。ボツリヌス菌はA-Gの7種類があるが、ヒトに対する中毒はA,B,E,まれにF型で起きる。

生育条件

A型, タンパク質分解型のBとFの場合

発育温度:10~48度
生育最低水分活性:0.935
ph:4.6~9
塩分濃度上限:10%

※A型もタンパク質分解性を持つ.

E型, タンパク質非分解型のBとFの場合

発育温度:3.3~45度
生育最低水分活性:0.97
ph:5~9
塩分濃度上限:5%

※E型はタンパク質分解性ではない.

(以上[5])

D-値(7D-reduction)

下記(予防方法の項)のほか[5]に芽胞の死滅条件がある。

なお、通常の調理においてボツリヌス菌が問題になることはほとんどない。
というのは、ボツリヌス菌は増殖速度が遅く、かつ毒素産出までに時間がかかるため、毒素産出が調理→摂取のペースに通常追いつかないから。

ただし、後述するように、真空パックや瓶詰めされ低酸素状態での保管期間が長くなるとボツリヌス菌が繁殖する可能性がある。

汚染経路

ボツリヌス菌の芽胞は土壌に広く存在するため、芽胞が食品原材料に付着する。

症状

毒素を含む食品摂取後8時間~36時間で発症。
吐き気・嘔吐、視力障害・言語障害・嚥下障害などの神経症状を起こす。重症の場合は、呼吸麻痺により死亡する。

食中毒発生のメカニズム

調理過程を経て死滅しなかった芽胞が、食品とともに真空パック・缶詰・瓶詰め、または発酵食品として密閉され酸素の少ない状態となると、芽胞が発芽しボツリヌス菌が増殖して毒素が排出される(もちろん、増殖温度下にある場合)。
この毒素が小腸から吸収されることで食中毒が引き起こされる。
ボツリヌス菌そのものは”成人”の腸内では繁殖しない。

[3]横浜市衛生研究所のページにボツリヌス症事故の具体的事例について記載があり、とても参考になる。

最小発症菌数

乳児ボツリヌス症を除き、発症条件は摂取菌数ではなく、毒素量である。
極めて少量の毒素で発症する。

[4]によれば、A型において、\(2.3 \times 10^{5}\)個 / g で毒素が産出されたとのデータがある。

食中毒予防策

芽胞を死滅させるのに必要な加熱条件は
120度×4分
100度×6時間
毒素を失活させるには、
80度×30分
85度×5分

・密閉容器内でボツリヌス菌が増殖すると容器が膨張し、開封時に異臭がすることがある。このような場合、その食品を廃棄すること。
・密閉された食品を常温保存する場合は、120度×4分以上の加熱が行われているか確認する。
・家庭で瓶詰めなどの密閉食品を作る場合、保存温度がボツリヌス菌の繁殖温度と重ならないようにすること

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参考文献

[1]国立感染症研究所
[2]東京都福祉保健局
[3]横浜市衛生研究所
[4]主な食中毒起因細菌の食品中における増殖について
[5]Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Food: Draft Guidance for Industry. U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration Center for Food Safety and Applied Nutrition, 2016.


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