黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
人の皮膚にも存在して耐熱性の高い毒素を出す黄色ブドウ球菌について、食中毒予防の観点から情報をまとめました。また、低温調理/真空調理をする人に向けて詳細な死滅温度(D-値)も紹介します。
スポンサーリンク概要
名前の由来は、顕微鏡で観察すると菌がぶどうの房のように集まっていることに由来する。化膿哺乳類・鳥類・ヒトの周辺環境に広く分布し、健康者でも20~30%が保菌するとされる。毒素型食中毒の原因菌であり、菌自体は加熱で死滅するが毒素は高温に耐える。2000年に大規模発生した雪印食中毒事件は黄色ブドウ球菌の毒素が原因だった。
生育条件
発育温度:7~47.8度
生育最低水分活性:0.83
ph:4~10
塩分濃度上限:20%
毒素を排出できる条件は
温度:10~48度
最低水分活性:0.85
ph:4~9.8
塩分濃度上限:10%
D-値(7D-reduction)
[4]
50度:128分(15時間)
55度:22分(2時間34分)
60度:400秒(47分)
Z-値 7.7度
[5]
53度:65分(7時間35分)
54度:24分(2時間48分)
55度:15分(1時間45分)
56度:9分(63分)
Z-値:6.06度
D-値が初耳の人はこちらをどうぞ。
汚染経路
環境中に広く分布するため、どんな食品にも付着し得る。
症状
30分~6時間(平均3時間)の潜伏期間後に、激しい吐気・嘔吐・腹痛・下痢など急性胃腸炎の症状を起こす。摂取した毒素量によっては重篤化し、入院を要する場合もある。
黄色ブドウ球菌の毒素に対する特別な治療法はなく、対症療法を行う。予後は良好で1~2日で回復する。
食中毒発生のメカニズム
黄色ブドウ球菌は、食品中での増殖時に毒素を排出し、その毒素を摂取することで上記症状を起こす。
最小発症菌数
毒素量にして約100ng(10ngの例もある)。
この場合の食品中の菌数は100万~1億/g。
食中毒予防策
・手に傷や化膿がある人に調理をさせない
・毒素は100度×20分の加熱でも分解されないため、再加熱を過信しない
参考文献
[1]国立感染症研究所
[2]東京都福祉保健局
[3]ファクトシート「ブドウ球菌食中毒」, 食品安全委員会.
[4]An investigation of the thermal inactivation of Staphylococcus aureus and the potential for increased thermotolerance as a result of chilled storage. J. Kennedy, I.S. Blair, D.A. McDowell2 and D.J. Bolton. Journal of Applied Microbiology 2005, 99, 1229–1235.
[5]Thermal resistance of local isolates of Staphylococcus aureus. Ratih Dewanti-Hariyadi, Juli Hadiyanto and Eko Hari Purnomo. Asian Journal of Food and Argo-Industry 2011, 4(04), 213-221.
[6]Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Food: Draft Guidance for Industry. U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration Center for Food Safety and Applied Nutrition, 2016.