ブタ回虫・猫回虫・犬回虫は、その名に反して牛や鶏を経由してヒトにも感染します。食中毒予防の観点からこれら回虫の情報をまとめました。

従来、猫回虫・犬回虫は土壌の存在する虫卵を経口摂取して感染する幼児に多い疾病と考えられていましたが、牛や鶏を介して成人に寄生するという、新たな感染経路が明らかになっています。以下ではブタ回虫に絞って記述しますが、ブタ回虫についての記述がほぼそのまま犬回虫などにも妥当します。

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概要

ブタ回虫(Ascaris suum)は典型的にはブタの肝臓・小腸に寄生するが、牛や鶏の筋肉中にも幼虫として存在でき、これをヒトが加熱不十分なまま摂取することでヒトへの感染が成立する。犬回虫(Toxocara canis)・猫回虫(Toxocara cati)についても同様。国内の牛・鶏の回虫感染を示唆するデータも報告されている。

寄生場所

ブタ回虫は典型的には幼虫はブタの内蔵に存在し、成虫はブタの小腸に寄生する。幼虫の存在する内蔵は白い斑点を帯びるため、屠畜検査段階で目視発見されれば廃棄される。ただし、目視での発見には限界があり、回虫感染したブタ肝臓は一部流通に乗っているものと考えられる。

なお、幼虫は待機宿主1)典型的な寄生対象ではないが、終宿主に寄生できるまでの間幼虫が寄生する仮の宿としての牛や鶏(主に筋肉部)に寄生することがある。

感染経路・症状

虫卵は、摂取された動物の体内で孵化して第3期幼虫に発達する。この回虫の第3期幼虫が感染したブタの内蔵、牛肉、鶏肉を加熱不十分なまま摂取することでヒトに感染する。

ブタ回虫にとっては、ヒトは終宿主ではなく待機宿主であって好適寄生対象ではない2)幼虫にとっても(ヒトにとっても)居心地が悪い。そのため、ヒトに感染した幼虫は体内を迷走し、内蔵、皮膚、眼などに様々な疾病を起こす(幼虫移行症)。

国内の汚染実態

[3]の調査によれば、栃木県と畜場にて処理された牛の16.7~37%が豚(/犬/猫)回虫陽性、地鶏では22.6~31.4%の陽性率であった。陽性率は農場によってバラツキがあり、犬や猫を飼っている農場に感染が集中する。

予防方法

食肉中の幼虫の死滅条件に関する研究は発見できなかった。クジラ(ヒトより体温は高い)に寄生する回虫であるアニサキスの死滅条件が参考になり得る。鮮魚の内蔵などに確認されるアニサキスは、その第3期幼虫であって、ヒトに感染し得るブタ回虫の幼虫と同じ発達ステージにある。


 

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参考文献

[1]国内におけるトキソカラ症の実態. 中村ふくみ.
[2]食品媒介によるトキソカラ症. 山 本 徳 栄. 日本食品微生物学会雑誌 Jpn. J. Food Microbiol., 31(1), 1‒12, 2014.
[3]食肉における動物由来回虫汚染の実態 —生食は人の幼虫移行症の原因となり得るか—. 岐阜県食肉衛生検査所.
[4]Tolerance to low temperatures of Toxocara cati larvae in chicken muscle tissue. Kensuke Taira., Yasuhide Saitoh., Natsuki Okada., Hiromu Sugiyama., Christian M.O.Kapel. Veterinary Parasitology Volume 189, Issues 2–4, 26 October 2012, Pages 383-386.


   [ + ]

1.典型的な寄生対象ではないが、終宿主に寄生できるまでの間幼虫が寄生する仮の宿
2.幼虫にとっても(ヒトにとっても)居心地が悪い
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