安全な低温調理に必要な加熱時間は、加熱温度、食材の厚み、付着しているリスク要因によって変化します。それに細かく対応した鶏肉の最低加熱時間を156パターン算出しました。

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最低加熱時間

はじめに断っておきますが、以下表中の値は「この時間以下だと危険」という意味ではなく、「この時間以上なら(下記リスク要因を十分殺菌できているという意味で)安全という」という意味と考えてください。

あと、記事の最後に超重要な補足を書いているので必ず読んで下さい。

chicken criterion56-67cut

55度以下の加熱温度については、安全性についての補足事項が増えるので、必要な情報を記事としてまとめた後に追記します。

最低加熱時間の算出方法

概要

鶏肉が保有すると考えられる細菌・寄生虫類の洗い出し
→加熱時間ごとに細菌を7D-ruduction、寄生虫を全滅させるために必要な最低保持時間\(T_1\)を計算
→食材全体が加熱温度に達するまでの時間(到達時間)\(T_2\)の推定値を\(T_1\)に追加

といった手順に従って加熱時間を算出しています。\(T_2\)の推定値にやや幅があるため、上に掲載した最低加熱時間も同じ分だけ幅を持ちます。
この最低加熱時間の算出方法は、以下記事で説明した手順に従っています。詳しくはこちらをどうぞ。(以下記事内で詳しく書いたことは、この記事では荒めにあっさり書いてます。)

リスク要因の洗い出し

鶏肉のリスク要因は以下の通りです(主に[1]の食肉の危害となりうる病原体リストから抽出)。

ウェルシュ菌、ボツリヌス菌などの芽胞性細菌の芽胞は60度台の加熱では破壊できませんが、繁殖を止めた上で、その(増殖型)栄養細胞を倒しておけば通常問題にはなりません。ここではこのような対処にとどめ、芽胞の破壊は目指しません。以下では芽胞を除いて考えます。

最低保持時間\(T_1\)の算出

56度以上の加熱温度があれば、上記細菌・寄生虫たち(以下、「細菌」と略称)は”やがて”死滅します。
この”やがて”にかかる時間は細菌によって異なります。
洗い出したリスク要因のうち、耐熱性の最も高いものはサルモネラ1)よく問題視されるSalmonella Enteritidis よりも耐熱性の高いSalmonella Senftenbergが付着しているものと想定しています。、あるいはリステリア・モノサイトゲネスなので各加熱温度において、これらを十分に殺菌できる加熱時間を考えます。

なお、”しぶとい”の判断は、各温度帯におけるD-値を比較して行っています。2)寄生虫については、その死滅温度を見ています。

リスク要因の死滅温度やD-値は、こちらのページ内のリンクから確認できます。

この記事では、7Dレベルの殺菌を行うことにしているので、加熱温度が\(c\)のときの最低保持時間(分)は\( D_{c} \times 7\)で計算できます。

たとえば、60度の加熱温度でサルモネラに対して7Dレベルの殺菌を行う場合は、\( D_{60} = 7.317\)なので、最低保持時間は\(7.31.7 \times 7 = 51.219\)分になります。

到達時間\(T_2\)の算出

以下の記事に食材の厚さごとの到達時間の推定値一覧があるので、そちらに譲ります。

なお、鶏胸肉の場合は、(経験上)小さい方の推定値でほぼ近似できます。そのため鶏胸であれば、私は最低加熱時間も下の方の値を使っています。

各加熱温度において\(T_1\)を計算し、食材の厚みごとに\(T_2\)を推定し、\(T_1 + T_2\)をした値が冒頭の表中の最低加熱時間、という訳です。

補足

この記事で1番重要かもしれない補足パートです。補足内容は、マンソン裂頭条虫とブタ回虫3)厳密には、犬回虫・猫回虫も考慮の対象ですが、ブタ回虫での補足内容が犬回虫などにもそのまま当てはまるため、ブタ回虫についてのみ記述します。の死滅温度です。

2018/03/02 補足
→補足内容を以下の記事に移植しました。

鶏肉に付着している可能性のあるのマンソン裂頭条虫・ブタ回虫の死滅条件の欠損データ部分をどのような理屈で埋めているかを解説しています。

冒頭の表の中では、リステリア・モノサイトゲネスやサルモネラを7D-reduction 殺菌行う過程でこれらの寄生虫リスクは消失する、と想定して表中の最低加熱温度を算出しています。この想定が妥当かどうかは上記記事を読んだ上で各自判断してください。

冒頭の表の値を盲信することなく、背後にある理屈を理解した上で、納得のいく使用方法をとっていただければと思います。

参考文献

[1]危害要因の性質等について(食中毒・汚染率等)

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おすすめツール

Nick が真空調理で使っている道具たちを一部紹介しておきます。

Anova

個人的にはこれ一択。そのうち記事で書きますが、Wi-Fi が圧倒的に便利。外出先にいながら火入れのコントロールが可能。加熱を複数温度に分けて行うなどの場合、外出先から出来ないと不便過ぎる。
最適な加熱条件が分かっているなら、帰宅が遅れた場合に出先から加熱温度を下げて火入れの進行を遅らせる技も使える。

あとは、温度コントロールが命の商品なので、実績あるAnovaが一番安心できるという側面も。安物買って気づかないうちに温度センサー壊れてた→食中毒…とかシャレにならない…。

ANOVA Precision Cooker – WIFI 2nd Gen (900 Watts)
Anova

ポリ袋

ワタナベ工業ポリ袋がいいと思います。ジップロックと比較して1枚あたり50%以上のコストダウンが図れます。野菜500gだって余裕で入る。


Nick はこの袋を400枚まとめ買いしてますが(既に1000枚は使った笑)、お試ししたい人向けに、40枚セットのリンクも一番下に貼っておきます。

ただ、ワタナベ工業ポリ袋にはジッパーがないので、密閉時にはクリップイットを。ポリ袋をクリップイットで留めるだけで簡単に密閉できます。袋の真ん中らへんなど、好きな位置で止められるので便利です。

また、クリップイットは-20~140度の温度耐性があり、湯煎にかけたり冷凍庫に放り込んだりしても2年以上1つも壊れていません。かなり丈夫です。

Nick はワタナベ工業ポリ袋 & クリップイットのコンビに非常に広い応用路を見出しており、真空調理 / 通常調理問わず、使わない日はまずありません。(追って記事書きます。)迷ったら買うべし。後悔させない自信ある。


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1.よく問題視されるSalmonella Enteritidis よりも耐熱性の高いSalmonella Senftenbergが付着しているものと想定しています。
2.寄生虫については、その死滅温度を見ています。
3.厳密には、犬回虫・猫回虫も考慮の対象ですが、ブタ回虫での補足内容が犬回虫などにもそのまま当てはまるため、ブタ回虫についてのみ記述します。
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