真空調理を行う食材の中心温度が目標温度に達するまでに何分かかるか? その推定値を提供します。

sous vide の安全性を考え始めると、真っ先に冒頭の疑問にぶち当たります。加熱殺菌の程度を計算する際に、どうしてもこの情報が必要になるからです。
この問に正確に答えるのは困難ですが、おおまかな幅を提供することは可能です。

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推定値一覧

A Practical Guide to Sous Vide Cooking, Douglas Baldwin” より抜粋・改変.

食材の形状が板状(たとえば、ステーキ)で厚さが35mmなら、中心部分が水温とほぼ等しくなるのに1時間半~2時間かかる、という風に読んで下さい。

また、食材が100mm厚の円柱状の場合では、5時間かかると思った方がよい、と考えてください。また、80mm以上の板状の食材の場合はデータが手に入りませんでした。しかし、問題にはならないかと思いますので、この部分のブランクは放置します。

推定値の出所

この推定値は、A Practical Guide to Sous Vide Cooking 記載のもの1)推定値の導出方法が同書に記載されています。悲観的な温度拡散率を想定して熱方程式から推定値を計算する、というものを抜粋・改変したものです。その意図を説明します。説明の便宜上、推定値がA分~B分であるとき、Aを下値・Bを上値と呼ぶことにします。細かい想定は本家の説明に譲るとして、概要だけ書きます。

上値の出所

上値は、5℃の食肉を45~80℃の恒温水槽に投入した場合の理論値です。温度拡散率は食肉に典型的と考えられるものを用いて計算しています。

下値の出所

他方で、下値は55~80℃の食材を5℃まで冷やす場合2)氷が半分以上を占める急冷用の水槽に投入した場合の理論値を転用したものです。上値を計算する際に用いたものと異なる温度拡散率・熱伝導性を想定して計算しています。

加熱時と冷却時では、温度の上昇・下降の違いだけで、温度の推移パターンは他方を反転させたものとよく似ることが経験的にわかっています。3)鶏ハムのsous vide とその後の急冷の温度をモニタリングして確かめました。したがって、冷却完了までにかかる時間も、温度上昇にかかる時間の推定値として悪くはありません。

推定値の信頼性

少なくとも鶏胸肉に対しては、経験的に下値がかなり有効な近似になっています。その他の部位・その他の食肉についてはまだ検証していませんが、脂肪分が少ない食肉については、下値が良い近似値になっていることが予測されます。また、卵の場合も下値はかなり良い近似値です。理論的に有効と考えられる上値があるのにわざわざ下値を紹介したのは、下値の方が経験的に推定値として正確だからです。4)あくまで「執筆時点で」「経験的」に正確なだけです。後になって撤回する可能性があります。理論的に堅牢なのは間違いなく上値の方です。

他方で、さつまいもの場合5)焼き芋の糖度を40にする研究をしています、上値を破ることがしばしばあります。しかし、厚みを実物+5mmした上値を破るほど大幅な逸脱はありません。心配な場合は、厚みを積み増した推定値を使ってください。

この推定値とD-値を組み合わせて使うことで、レシピの安全性を評価することが可能になります。是非、積極的にご利用ください。


参考文献

A Practical Guide to Sous Vide Cooking, Douglas Baldwin

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おすすめツール

Nick が真空調理で使っている道具たちを一部紹介しておきます。

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個人的にはこれ一択。そのうち記事で書きますが、Wi-Fi が圧倒的に便利。外出先にいながら火入れのコントロールが可能。加熱を複数温度に分けて行うなどの場合、外出先から出来ないと不便過ぎる。
最適な加熱条件が分かっているなら、帰宅が遅れた場合に出先から加熱温度を下げて火入れの進行を遅らせる技も使える。

あとは、温度コントロールが命の商品なので、実績あるAnovaが一番安心できるという側面も。安物買って気づかないうちに温度センサー壊れてた→食中毒…とかシャレにならない…。

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Nick はこの袋を400枚まとめ買いしてますが(既に1000枚は使った笑)、お試ししたい人向けに、40枚セットのリンクも一番下に貼っておきます。

ただ、ワタナベ工業ポリ袋にはジッパーがないので、密閉時にはクリップイットを。ポリ袋をクリップイットで留めるだけで簡単に密閉できます。袋の真ん中らへんなど、好きな位置で止められるので便利です。

また、クリップイットは-20~140度の温度耐性があり、湯煎にかけたり冷凍庫に放り込んだりしても2年以上1つも壊れていません。かなり丈夫です。

Nick はワタナベ工業ポリ袋 & クリップイットのコンビに非常に広い応用路を見出しており、真空調理 / 通常調理問わず、使わない日はまずありません。(追って記事書きます。)迷ったら買うべし。後悔させない自信ある。

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1.推定値の導出方法が同書に記載されています。悲観的な温度拡散率を想定して熱方程式から推定値を計算する、というもの
2.氷が半分以上を占める急冷用の水槽に投入した場合
3.鶏ハムのsous vide とその後の急冷の温度をモニタリングして確かめました。
4.あくまで「執筆時点で」「経験的」に正確なだけです。後になって撤回する可能性があります。理論的に堅牢なのは間違いなく上値の方です。
5.焼き芋の糖度を40にする研究をしています
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“低温調理/真空調理した食材が目標温度に達するまでの時間の推定” への4件の返信

  1. 初めまして。
    最近Anovaを購入して、低温調理の衛生面を調べていたら辿り着きました。いつもお世話になっております。

    この記事における加熱時間が基本的な熱拡散PDEを元に算出されるのは分かりますが、食材が5℃からではなく冷凍された状態からスタートするとどうなるのでしょうか?
    凍った水分を解凍するためにより多くのエネルギーが必要で、単純な熱拡散PDEだと記述できていない部分があると思います。
    (実際に凍ったものをAnovaで加熱しようとするとお湯の温度が少し下がってしまう、などの問題まで反映して正確にシミュレーションしようとするとかなり大変そうですが、仮にその影響を無視して等温加熱だとして)
    熱拡散PDEの導出まで遡ればどうシミュレーションすればいいのか分かりそうな気はしますが、あまり自信が持てず、Nickさんの考えを伺いたくコメントしました。

    1. 初めまして、こんばんは。
      Nickです。
      まさに書いていただいた理由により、冷凍品の湯煎加熱のシミュレーションには、5℃スタートの加熱とは異なるモデルが必要です。
      冷凍品のケースもDouglas Baldwin のサイトのどこかに載っていたはずなので、興味があれば調べてみてください。
      モデルのディスクリプションがどの程度詳細に提供されていたかまでは記憶が定かではありませんが、少なくともチルドの場合のような(十分に実用的な)温度×時間のマトリクスは存在していたかと思います。

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