中心温度をモニタリングした鶏胸肉のデータから殺菌レベルを算出して安全性評価を行います。

7D、12Dなどに必要な加熱時間も計算したいと思います。
なお、今回殺菌の対象として考えるのはサルモネラとします。カンピロバクターは次回以降に譲ります。

殺菌レベルの算出にはD-値を使います。なにそれ?って方は以下の記事をどうぞ。

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前回の復習

細かい実験方法などは前回参照。モニタリング結果を再掲。

加熱開始
32分後に50℃
34分後に51℃
35分後に52℃
37分後に53℃
38分後に54℃
40分後に55℃
42分後に56℃
45分後に57℃
47分後に58℃
51分後に59℃
55分後に60℃
60分後に61℃
66分後に62℃
78分後に63℃
に到達。

D-値の算出

サルモネラのページ記載のD-値、Z-値から各温度のD-値を計算すると…
(一部略)
55℃:43.8 (min)
56℃:28.9479621
57℃:19.13206644
58℃:11.46280898
59℃:11.07105913
60℃:7.317
61℃:4.835895861
62℃:3.196103472
63℃:1.802343794
となります。
なお、D-値を計算する際には、隣接する直下の温度のD-値から新たなD-値を計算する方法と、直上の温度から計算する方法がありますが、ここでは、両方を計算してみて不利な方の値を採用しています。

殺菌レベルの算出

55℃×2分の加熱によって、2/43.8≒0.04566 Dの殺菌、
56℃×3分の加熱によって、3/28.9479… Dの殺菌、
となり、この〇〇Dを足し合わせると

60分の加熱で2.025084294D
70分の加熱で4.623423826D
72分の加熱で5.249185803D
75分の加熱で6.187828769D
78分の加熱で7.368423849D
80分の加熱で8.478090055D
81分の加熱で9.032923158D

とわかります。なお、上のD-値計算では書いていませんが、50℃~54℃のD-値も含めて殺菌レベルを計算しています(50℃~54℃での殺菌レベルは合計0.39D程度です)。 1分単位で殺菌レベルのグラフを作るとこうなります。

補足

あくまで中心部分の殺菌レベル

この結果は、鶏肉全体の殺菌レベルが60分で2.02D程度ということではありません。中心部分の殺菌レベルはその程度、と示すに留まります。中心から肉の表面に向かうにつれ、温度上昇は早くなり、したがって殺菌レベルも中心よりも高くなるでしょう。つまり、肉全体の”平均”殺菌レベルは今回の結果よりもいくぶんマシなはずです。しかし、安全を期すならやはり、中心部分の殺菌レベルで安全性の評価を下すべきです。中心部分だって食べるのですからね。1)カンピロバクターは筋肉中にも存在する。サルモネラ菌はと殺の表面汚染が中心なので中心部分に向かうにつれて汚染度合いは弱まると想像されるが、グラデーションの程度は不明。

余熱の存在

ここでの殺菌レベルの計算は、あくまで”湯煎中”にされるものだけです。現実には、恒温水から引き上げた後、(カットする前に)粗熱を取るなどしている間も余熱が入り、殺菌は進みます。今回実験した肉を加熱後に1℃の大量の水に沈めても、3分間は中心温度は63℃から動きません。この間に理論上は、中心部分で約1.5Dの殺菌が進みます。ただし、中心温度が61℃以下のときは、ほとんど殺菌は進みません(60℃で0.41D、55℃で0.068D)。

余熱でどれくらい殺菌が進むのかを予測するには多くの要因が組み込まれるため、複雑で、かなり面倒な計算が必要になります。現実の応用には向きません。余熱での殺菌は起こるものの、殺菌レベルの計算からは排除した方が賢明です。安全を期すなら、やはり湯煎中の殺菌レベルを安全性の基準とするべきでしょう。

評価・結論

以上のように、湯煎中に起こる中心部分の殺菌レベルをベンチマークとして、調理全体の殺菌レベルを評価することにしましょう。その場合、63℃(あるいはそれ以下)の水温設定では、60分間の加熱では不十分です。最低でも求められる5Dレベルの殺菌に全然届いていないからです。ハッキリ言って、2.02Dはかなり危険です。

あなたが5Dレベルの殺菌でOKなら72分+α(バッファ分)、7Dまで求めるなら78分+α、などを採用すると良いかと思います。ちなみに、12Dレベルまで求めるなら今回の場合は、87分+αが必要です。

今回のように調理温度が63℃と(私の感覚では)比較的高い場合、温度がある程度上昇してきた調理の後半で一気に殺菌が進みますが、水温設定が55℃などの低温域の場合はそうはいきません。たとえば55℃の場合、サルモネラ1Dの殺菌に40分以上かかるため、5Dを達成するのにどんなに短くて200分はかかります。実際の調理となると確実にさらに時間がかかりますが、どの程度の時間が必要なのかは確かめてみなければわかりません。

ややショッキングな結果となりましたが、やってみて良かったです。鶏肉の大きさ・温度などを変えつつ、実験データを積み重ねることには意味がありそうです。今後も同様のデータを公表していこうと思います。

この鶏胸肉のカンピロバクターの殺菌レベルについても計算しました。

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1.カンピロバクターは筋肉中にも存在する。サルモネラ菌はと殺の表面汚染が中心なので中心部分に向かうにつれて汚染度合いは弱まると想像されるが、グラデーションの程度は不明。
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“【Anova】鶏ハムのサルモネラ殺菌レベル/食中毒リスク算出” への1件の返信

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