「とりあえず加熱すれば安全」「冷蔵庫に入れれば…」「冷凍すれば…」と思っている人のための食中毒基礎知識です。この手の基礎知識は、一度勉強すれば一生使えるモノなので今回で押さえてしまいましょう。

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食中毒とは

定義

ヒトに感染する細菌・ウイルス、または毒性のある物質を、食品経由で摂取することで発症する腹痛・下痢・嘔吐・発熱などの疾病を、食中毒と呼びます。

“毒性のある物質”には、有害な化学物質(ダイオキシン・放射性物質など)も含まれますが、ここでは後述するように、細菌やウイルス、寄生虫由来の食中毒のみを扱います。

腐敗と食中毒の違い

しばしば混同される腐敗と食中毒ですが、これら2つは全く異なる現象です。

簡単に言えば、腐敗とは、微生物の働きによって、食品の味・香り・食感・見た目が不快な方向に変化していく現象を言います。

この変化が不快でなく、人間にとって好ましい変化であれば(たとえば、牛乳からチーズができるなど)、それは腐敗ではなく発酵と呼ばれます。腐敗・発酵という呼び名は、微生物の働きによる食品の変化を人間が歓迎するか・しないかによって決まります。

発酵食品を食べても下痢・嘔吐などに繋がらないのと同様に、腐敗した食品を食べても(おそらく美味しくはないが)身体には問題を起こすとは限りません。

他方で、食中毒の場合は、腐敗・発酵の場合と違って不快な身体症状に繋がります。また、多くの場合、細菌やウイルスが原因で食品の見た目・味・香りが変わることはありません。(食中毒の危険を見た目や香りから判断することは一般的には困難です。)

このように腐敗と食中毒も、小さな生き物たちの仕業という点では同じですが、食品や人間に及ぼす影響は全く異なります。

食中毒の原因3タイプ

学術的にはもっと細かく分けれますが、ここではざっくり「感染型」「毒素型」「寄生虫型」の3タイプに分けて説明します。

感染型

感染型食中毒は、ウイルスや細菌(以降、「細菌」で統一します)が原因となる食中毒のうち、細菌を摂取した後に身体の中で増殖し、細菌が腸管などを攻撃し始めることが原因となるもので、サルモネラ菌リステリアなどがこのタイプの代表例です。細菌の摂取量を抑えることができれば発症しないため、細菌が増殖した状態の食品を食べなければ防げます。

毒素型

毒素型食中毒は、感染型とは異なり、原因は細菌の摂取そのものではありません。食品中で増加した細菌が排出する毒素を摂取することで発症する食中毒になります。黄色ブドウ球菌ボツリヌス菌が代表例です。また、腸炎ビブリオのように、経口摂取した原因菌が腸内で毒素を排出するといった、感染型と毒素型の中間的なタイプも存在します。

食事前に食品を再加熱して細菌自体を殺しても、排出された耐熱性の毒素が熱分解されなければ食中毒を起こします。そのため、一度食品が耐熱性の高い毒素に汚染されてしまえば、その後の再加熱は食中毒予防策としては機能しない可能性があります。このタイプの例としては、黄色ブドウ球菌が排出する耐熱性毒素が挙げられます。

寄生虫型

文字通り寄生虫が原因となる食中毒です。ウイルスや細菌が原因となる食中毒と顕著に異なるところは
1.寄生虫たった1匹を摂取しても症状が出る
2.寄生期間が長いと40年など長期に渡って症状が出る場合がある
3.冷凍によって殺虫できる場合がある
などが挙げられます。鮮魚の内蔵に寄生するアニサキスが代表例です。

食中毒原因はどこから来るか

細菌もウイルスも何もないところから突然生えてきたりはしません。自然界における各々の居住区から食べ物の元にやってきます。移動ルートは主に2つあります。

一次汚染

食品の生産段階で食中毒原因が付着してしまうパターンを一次汚染と言います。食品が自然の恵みであるゆえの代償です。多くの原因菌は、土壌、河川水、海水、哺乳類の腸管、人間の皮膚など、あらゆるところに居ます。そのため、全ての食品に食中毒原因菌が付着していると言ってよいでしょう。

野菜には土壌に広く分布するセレウス菌が、魚には海水中に存在する腸炎ビブリオが、牛肉には腸管に存在するサルモネラが(と殺段階で)付着しているものと思いましょう。また、寄生虫も一次汚染の典型例です。

この一次汚染を完全に防ぐのは困難ですが、日本のように衛生水準の高い国では、家庭での一般的な調理で対処できないほどの深刻な汚染を受けた食品はそもそも流通に乗りません。一次汚染についての過度な心配は無用です。問題はむしろ二次汚染にあります。

二次汚染

食品・調理器具・手指などに付着している食中毒原因菌を、新たに別の食品に付着させて汚染が拡大されることを二次汚染と言います。交差汚染(Cross-Contamination)と言っても同義です。

一次汚染を天災とするなら、二次汚染は人災です。主に食品加工や調理の過程で、生肉を触った手で野菜を触ったり、手の切り傷から菌が食品に移ったりすることが、二次汚染の典型例です。多くの食中毒の原因は一次汚染ではなく、二次汚染です。不意打ちを食らう形ですね。

食中毒原因の「量」

最低発症菌数

食中毒は、食中毒の原因となる生物や物質を、一定量以上摂取することで発症します。

この「一定量」は、摂取した生物・物資(以下、細菌で統一)次第で様々です。細菌が人体を有効に攻撃するためには、相応の攻撃力(と生体バリアをくぐり抜ける運と図太さ)が必要であり、細菌の種類によって、それが持つ人体への攻撃能力が異なるためです。

この「一定量」を最低発症菌数などと呼びます。たとえば、腸炎ビブリオの最低発症菌数は10万個、カンピロバクターは100個、ノロウイルスの最低発症菌数は10個となります。最低発症菌数が小さければ小さいほど、少ない数で人間に危害を加えることができる強力な細菌(ウイルス)ということになります。ノロウイルスは間違いなく最強クラスです。

増殖条件

ウイルスと寄生虫は、食品中で増えることはありません。しかし、細菌は、彼らにとって都合良い環境になると自分のクローンを分裂によって作り、増殖を始めます。

“都合の良い環境”は菌によって異なります。人間でも夏(/冬)が好きな人、陸上(/水泳)が得意な人などがいるように、細菌にも種類によって温度の高低・酸素の有無などで得意不得意があります。なお、温度や酸素以外にも、phや水分活性も重要な要素です。

また、増殖する際の速度も重要です。この速度の次第で、食品が深刻な汚染を受けるまでの時間が決まります。

多くの細菌は人間の体温付近で最も活発に活動し、頻繁に分裂します。夏場に食中毒が多いのはこのためです。逆に、4度以下では多くの菌が分裂できず、群れの数を維持するだけに留まります。4度以下でも活動できる菌(リステリアなど)もありますが、増殖速度は室温などに比べ大幅に鈍ります。

死滅条件

食品中の食中毒原因生物を減らすこともできます。食品から細菌を洗い落として減らすことも可能ですが、限界があります。やはり、根こそぎ殺せればそれに越したことはないでしょう。食中毒原因生物も不死身ではないため、一定の条件下で死滅します。たとえば、Ph処理・高圧処理・加熱です。基本的に、細菌やウイルスは冷凍では死滅しません。逆に、多くの寄生虫は、細菌やウイルスと異なり冷凍で死滅します。

最も一般的な方法はもちろん加熱です。前述の通り、食中毒原因生物によって高温耐性は様々で、個別に覚えるのが大変なため、行政が「中心部を75度以上で1分加熱すれば安全」「63度30分でもいいよ」などわかりやすい加熱の基準を用意してくれています。この基準に従って調理・殺菌をすることが、食中毒予防策の大きな柱の1つになります。

次の学習の方向性

食中毒予防策の概要

以上が食中毒知識の基礎の基礎でした。端的に言って食中毒を防ぐには、最低発症菌数以上の細菌(や毒素)を摂取しなければ良いわけです。そのための予防策としては、
・余計な菌を食品に付けない(二次汚染予防)
・食品に付着した細菌を増やさない(増殖条件の制御)
・食品に付着した細菌を減らす(加熱殺菌)
の3つのアプローチがあります。

次のステップとしては、これら3点の実践的方法をインプットしていくと良いでしょう。

もう1つの前提知識: 食中毒原因生物の基礎知識

ただし、これら3点をインプットする上で、もう1つ必要となるものがあります: 個別の細菌やウイルス、寄生虫(つまりは”敵”)の情報です。なぜなら、特に先の2点目を実践するためには、敵の苦手なことを必要があり、それを知るためには、そもそも敵を詳しく知る必要があるからです。主要な敵についてまとめた記事があるので、ご参照ください。

おまけ: 低温調理するならD-値の理解も必須

あくまで”おまけ”なので手短に。D-値とは特定温度での加熱の際に、食品内に存在する細菌の90%を殺菌するのにかかる時間のことを言います。(詳細は別の機会に譲ります。)このD-値は、調理の中で”十分に殺菌”できたかを評価するのに用いられます。行政が提示する「75度以上で1分以上」という加熱基準も、このD-値を使って算出されています。

なぜD-値を知る必要があるか? 行政の加熱基準を守る上では、D-値など知る必要はありません。なぜなら、その基準に従えば基本的に一定の安全性が担保されるからです。しかし、低温調理/真空調理では、その基準に破ることになるため、別の安全性の基準が必要になります。つまり、自分でD-値を元に自分の調理の安全性を検証する必要があります。そのために、D-値とは何者で、どのように使うかを”正しく”理解する必要があります。これが、初めの問に対する答えです。正直言って面倒ですが、私は面倒だと思いつつ実践しています。機会があればその内幕を公開したいと思います。ネット上で詳細な安全性検証記事が共有されることはあまりないようですし。

つづく。

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どこにどんな菌や寄生虫がいるかは覚えるのが大変です。というか、そもそも整理するのが大変です。なので、私がやっておきました。ご利用ください。(これ作るの超苦労した。。)


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